「妻立の柵」1938年 21.5x28.7 「夜訪の柵」1938年 25.6x28.0
「善知鳥板画巻」全31図 は謡曲に謡われる悲話によるもので、ここでは最後まで救いがなく、暗い世の道の悲哀に暮れるのですが、どうしようもない重い宿命的物語の中に深く沈む諦感があります。この中から九図が先輩である水谷良一によって選ばれ、帝展に出展され、版画界初めての特選となりました。
とくに「夜訪の柵」や「妻立の柵」を始め、鳥を表した図面の扱いが出色です。
棟方志功は語っています。
「制作にあたっては善知鳥の基本と謡曲のもっている序破急の律を、板画の世界で見ようと思いました。そうして、能の持っている幽玄と寂妙を、白と黒の絶対性でつかみたいと思いました。この頃から、白と黒が大切なものと思い、この点を本当に板画で貫いていこうと思ったのです。」
「制作にあたっては謡曲の善知鳥と同じにしてはあまりに能の型にあてはまりすぎるので、なるたけ離れて板画独自のものに進めていきたいと思いました。ですから、善知鳥板画巻には、謡曲の場にないものがでています。序破急という能律も板画の中では別の形や思い出で出ています。場面は青森の舞台で東北の人を扱いました。能の場面を避け、白と黒で北国の持っている、悲しいうちになんともいえない燃え上がってくるものとして、善知鳥の物語りを扱いました。」
このように棟方志功が語るように、決して能の場面をそのままにとりいれずに郷里青森を背景にし、北国の空のもとで自らが経験した感情をここに託したところに、独特の見識があり、この作品の特色を生み出しています。
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棟方志功はこの前期を代表する「華厳譜」23図について次のように回顧しています。
「釈迦が自分の哲理の思いに、声光らせ語るときは東に山が湧き出で、しみじみと語る時には西に海ができたというわけで、天下この説の上に説なしという位のものです。華厳譜はその華厳経をもとにはしましたが、私はそんな大それたことから扱ったのではなく、華やかで厳かにできれば良いのだなという軽い、一年生のような思いでやりました。」「この板画の制作にかかったとき、お経に出てくる仏だけでは私の思う華厳にはなり切れない気がしました。こういうと経をもとにして棟方志功が新しい宗教をひらくような感じがするかもしれません、そうではなく、自身が燃え上がるような感じで、不動とか風の神とか、雨の神とかそういったお経の中にない、真言の密教の中に入っているべき諸仏諸神も入れて板画の世界を織りなそうと思ったのです。」![]()
棟方志功 「華厳譜 月神の柵」
1937年
30.0x39.0
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